骨盤がズレたら足の長さが変わるってほんと?
骨盤矯正を語る上で最もポピュラーなのが「左右の足の長さを揃える」というやつではないでしょうか。
我々の整体業界では「脚長差(きゃくちょうさ)」と呼ばれていますが、よくあるのがうつ伏せや仰向けで左右のかかとの位置を比べて「右足が2cm短いです、骨盤が右に歪んでますね」とか、そんな感じで言われるやつです。
骨盤が歪むと足の長さが変わる!って確かになんとなく説得力がありますし、プロっぽい先生に「骨盤が歪んで足の長さが違うのが腰痛の原因です」なんて言われたら確かに信用しちゃいますよね。
でも本当に左右の足の長さの違いって骨盤の歪みが原因なのでしょうか?
さらには本当に足の長さを揃えれば産後の不調は改善するのでしょうか?
今回はそんなお話しです。
10回通院しても脚長差が戻らない?
これは以前、僕がまだ施術をしていた頃の会話です。
👩「先生、私の両足の長さって揃ってますか?」
僕「え?どうかなあ・・・(チェックしながら)特に目立った左右差はないですよ」
👩「そうですか、よかった!」
僕「どうかしました?」
👩「実は地元の友達がちょうど私と同じくらいに出産して、その子が地元の接骨院の骨盤矯正に通ってるそうなんですけど、毎回行くたびに骨盤がゆがんでるから足の長さが左右で違ってるって言われて、いつも足の長さを揃えてもらってるらしいんですけど、もう10回くらい通ってるのに身体も全然よくなってる気がしないって言ってて、どうしたらいいのかなって相談されてて」
僕「・・・」
👩「私は足の長さなんてチェックされたことないけど腰痛も良くなって身体もすごく楽になったから、友達がかわいそうに思えてきて。ここの院を紹介してあげたいくらいですけど、地元の友達だから通えないし・・・どうしたらいいですかねー」
もちろん今なら迷わず最寄りの骨盤軸整体のインストラクターを紹介しているところなんですが、当時は僕自身まだそんなネットワークも構築できていない時代の話です。
まあ結論を言うと、残念ですがそこの院には通う意味はないと思います。
整体と一括りにしてもその中身は千差万別で、他所の整体院や接骨院で何をやってるのかは僕も知りませんし、知らないことを一方的に批判するつもりもありません。
しかし10回通っても同じ足の長さを揃える施術ばかりを繰り返し、何よりクライアントが自分の身体の変化を実感できないのであれば、おそらく11回目も12回目も劇的に変化していくことはありえないと思いますし、おそらくその調子であればいつになっても友人の不調が改善することはないということは容易に想像ができます。
脚長差の原因は骨盤のゆがみだけではない
そもそも脚の長さの違い=骨盤のゆがみという公式を産後のボディケアに結びつけていることが問題だったりします。
骨盤の変位(歪みや開き全般を指す)が脚長差として出るのは確かにありえますし、そのこと自体を否定するわけではないのですが、足の長さが違う原因が必ずしも骨盤の変位とは限らないということを見落として語られているケースがあまりにも多いです。
大前提として人体は完全な左右対称ではないですから、両足の大腿骨、脛骨、腓骨、距骨、踵骨といった主な骨の長さや大きさだって左右で全く同じなわけではありませんし、むしろ寸分違わず左右の足の長さが全く同じ人間は存在しないと言えます。
そして下肢には大小合わせて様々な筋肉が走行しており、お互いに引っ張り合って様々な動作に対応したり、関節を安定させたりしているため、そのような筋肉の緊張のバランスによっても見た目の脚の長さは影響を受けやすいですし、逆にそれらの筋肉をストレッチしたり揉みほぐすだけで簡単に脚の長さを調整する=脚長差が変化したように見せることも可能です。
ですから左右の足の長さが違って見えるからといって、それが骨盤の歪みが原因であるとは決して言い切れません。
さらに言うならば、仮にその脚長差が骨盤のズレや歪みに起因しているとしても、そのような骨盤の変位というのは日頃の身体の使い方などの様々な原因が積み重なった結果として発生しているわけです。
ですから例え足の長さだけ揃えたとしてもそれはただの表面上の、その場しのぎの修正にしかならず、本質的な原因が改善されていない以上、また脚長差は発生し続けます。
だから10回も通っても何も変わらない、という悲劇が生まれるわけです。
仮にセラピストが本気で脚長差を改善しようと思うのだったら、そのクライアントの日頃の姿勢やら癖やら生活習慣やらを正しく把握して、筋肉のアンバランスの状態をチェックして、そこのバランスを改善していくような施術をおこなわなければいけません。
それができれば脚長差は自然に解消していきますし、そもそも脚長差を意識する必要すらなくなってきます。
誰のための施術であるのか?を真剣に考える
もちろん脚長差を揃える手技をメインで使っている先生も沢山いるとは思いますし、その中にはもしかしたらレントゲン画像などを用いて整形外科的に正しい診断方法で判断しながら取り組んでいる可能性もゼロではないので、脚長差にこだわること自体が悪いというつもりはありません。
しかし10回も施術をしているにも関わらずクライアントが満足する結果に繋がっていないのならば、少なくともそのクライアントに対してはその施術スタイルは適性があるとはいえないでしょうし、それならばそのようなスタイルに固執するのではなく、クライアントのために施術の方向性を変えるべきなのではないでしょうか?
我々はプロである以上は結果を出すべきであり、結果のでない施術を繰り返すのはただのエゴに過ぎません。
脚長差というのは確かに指標としては分かりやすいですし、骨盤がズレてるから足の長さが違うというのはインパクトがあるので説明に使いやすいのですが、しかしそのような安直な指標として重用されるあまり、足の長さを揃えれば骨盤が矯正されるといった安易な考え方が一人歩きしているのもまた真実でもあります。
でもその使い勝手の良さに甘んじてそればかりに頼り切り、結果として本質的な改善につながらないのであればそれは本末転倒であり、挙げ句の果てには出来もしないことを出来ると言ってクライアントに金銭的身体的負担をかけ続けるのであれば、それは整体業界を貶める行為であって、まわりまわって最終的には自分の首を絞めるだけではないでしょうか。
産後の女性のボディケアに関しては脚長差を揃えること、さらにいうなら骨盤の矯正より優先して取り組まなくてはいけないことがたくさんありますし、逆にいうとそれが分からないのであれば安易に産後のボディケアに参入するべきではないとすら思います。
クライアントの真剣さに応えられる施術者であるために
何度も言いますが、決して脚長差を揃える整体それ自体を否定しているわけではないです。
しかし物事には適切な手順があり、ひとつの考え方で全ての症例に当てはまることはできないということです。
産後の女性の身体を本質的に改善していくためには足の長さを揃える必要はないですし、仮に百歩譲って何かしらの効果があるのだとしても、少なくともそれは産後の女性に対して優先順位の高い施術ではないです。他に優先してやるべき、改善していくべきことはいくつもあります。
あくまでも正しい知識の上で、クライアントの状態を総合的に判断して最適な施術を提供する。そんなことは言うまでもない当たり前のことだと思いますが、でもその当たり前のことが出来ないのであれば、あらためて自分の立ち位置をもう一度見つめ直す必要があるのではないでしょうか。
いつだってクライアントは真剣です。
もちろん我々だって真剣であるとは思います。
しかしその真剣さとクラアントの真剣さは、本当に同じ方向を向いていますか?
残念ながらその真剣さが別のベクトルに向かっていることはありませんか?
クライアントの思いに対して、きちんと結果を出して還元していくために。
せっかく身につけた技術は果たして誰のためのものなのか、今一度考え直してみるべきではないでしょうか。